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変換異説 [ちょっと哲学的]

甦る怪物(リヴィアタン) 私のマルクス ロシア篇  佐藤優

ソ連崩壊の歴史的瞬間に身をおいていた若き日の佐藤。日本の外交官でありながら、モスクワ大学で教鞭(プロテスタント神学)を執っていたり、ソ連科学アカデミー民族学研究所の客員研究生であったりと、当時のソ連エリートや政治家などとの深い人脈を構築していた。これを読むと、佐藤はほんとに凄いのである。鈴木宗男関連で逮捕失職することがなければ、北方領土も返還されていたかもしれないほどの人物である。まぁ、構成上の問題や効果などのためにいくらかはフィクションも入っているだろうが、それにしても歴史の舞台裏を少し垣間見るような感じである。
ここで重要なキーワードとなるのが、ユーラシア主義である。ウィキの解説とやや異なるのであるが、ピョートル・サビツキーのユーラシア主義は、「ヨーロッパとアジアにまたがるロシアには、独自の文化と発展法則があり、ロシアはそれ自体として完結した世界であるとする思想。西欧の一元的な進歩の思想を否定し、普遍主義を拒否し、多元主義を称揚する。お互いに出入りする窓のないモナド(単子)が切磋琢磨して、世界は構成されているとするライプニッツのモナドロジー(単子論)と親和的な考え方。」としている。ユーラシア主義者は、ボリシェビズムとファシズムの共通性を強調し、それを肯定的に評価する。動員型政治を展開したムッソリーニ指導によるファッショ・イタリアもソ連と同様とする。ちょっと余談にはなるが、このユーラシア主義でファッショ的言説を排したとすれば、ネグリのいうところのマルチチュードにも繋がるのではなかろうか。というのもマルチチュードは多元モナドロジーと親和的であり、インターナショナルの一元性を超えた多様性を認めるものでもあるからだ。そして、ファシストではないとしてもネグリはイタリアのマルクス主義者であるという点で、非常に両概念は似ているように思う。
さて、肝心のソ連崩壊への道程であるが、民族問題がないはずのソ連において民族主義が台頭してきたことが、ソ連崩壊に繋がったということである。エトノクラチア(民族統治主義)を標榜しようと各民族主義者らが声高に民族自決を煽りだした背景に、当時ゴルバチョフ政権下で進められたペレストロイカが関連している。ペレストロイカはソ連邦に市場型経済を緩やかながら導入することによって生産性を向上する狙いがあったのだが、それはソ連邦を構成するロシア以外の資源を有する主権構成国家に近代的資本蓄積という土壌を生んだ。また、連邦制議会の選出議員の選挙方法も改正されたことにより、中央集権型(ビューロクラチア)の上から下への通達型政治に変調をきたすこととなる。それまで中央(クレムリン)に集中した超一流エリートたちによって大ソビエトをひとつに束ねることが出来ていた共産党官僚政治に、主権構成国家において議員に選挙せられるために二流エリートにあっては、民族意識を扇動することが最も簡易にしていわゆるそのエトノスの支持を得やすい結果となった。これによりクレムリンのロビー活動とも絡み、地方の二流エリートたちが主権構成国家の主導部に入ることで、主権国自体が政治的に弱体化もし、それは当然にソ連邦の弱体化でもあたのである。ソビエト連邦が一枚岩のごとく強固なときは、ソ連というナショナリズムによって辛うじて一体性を保つことが出来ていたのであるが、急激な社会変革に晒されたときに弱体化した政治機構が執るべきは力づくの引き締め、弾圧であるが、中央のこの政策は、弱体的主権構成国家(経済的には強固な国もある)には台頭した自民族主義にかえって反動を与えるばかりであった。スパイラル的に中央と地方の政策に対するズレがまさに軋轢となって、度重なる民族間同士の紛争も起こり、ソ連崩壊はいずれにせよ時間の問題であったということだ。そして、執拗低音としてロシア史に常に流れるユーラシア主義が、ロシアをも含めて主権構成国の独立へと流れていくのである。
以上が簡略なソ連崩壊の根底であるが、ほかにこの本に頻出するのが、人脈構築や議論形成の重要な役割を果たす、カフェであったりレストランでの会食である。そこでよく登場するのがゴルバチョフ政権下で設立された第一号協同組合カフェ、クロポトキンスカヤ36番地協同組合カフェである。カフェといってもいわゆる酒も飲める食堂みたいな感じであるのだが、ここで佐藤、相手もいるのだがウオトカ、飲むは飲むは。毎回、最低でも2本!(てことは1升)は空にしているのである。破格である。今更ながら東京地検特捜部というのは「国益」を損ねる部署として映ってしまう所以である。そして、佐藤はある民主党応援哲学者と懇意にしているようであるが、この会食の描写の挿入というのは、ドストエフスキーというよりもトルストイに近い感覚を覚えた。まぁ、帝政ロシア時代の食卓の風景なんぞ研究してもしかたないから、ドストエフスキーなのだろうけど、最後にサイコとしての究極の民主党支持率アップ作戦を披露して締めたい。
北方領土返還! そしてそこに米軍基地移設! 北朝鮮よ、核ミサイル打ち込んでもいいぞ! なんて望んでないが、4島返還があらゆるオプションに使えるのだから、これをアメリカが「疎外」することは両国の国益にとってよくないはずなのだが・・・



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