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吉本隆明の時代 [ちょっと哲学的]

吉本隆明の時代  絓秀実


いやー、この本は多分、ここに出てくるありとあらゆる人(当然、「普遍的」知識人、「種別的」知識人、「聖職者的」知識人、「自由浮動的」知識人も含む)について多少でも知っていなければ、とてもついていけないような本だとは思うのだが、何故かサイコにはすんなり入ってきた。まぁ、例によって、〈民主〉と〈愛国〉を一応、通読しているから背景的なものがあるのではあるが、はっきり言って、背景でしかないのである。絓の1968年は非常にリンクするのでどちらかといえばそちらが参照先にもなるのだろうが、吉本隆明の時代は60年安保が主なテーマであるから、重複する部分に留まっているのである。ではなんですんなりいけたのか。簡単に言ってしまうと、このブログで、特に思いたって最近紹介しているような著述を取り敢えず読んでいたから、ということである。もうちょっと敷衍すると、それこそサルトルの時代背景というところを、デリダの「パピエ・マシン」で取敢えず知っていて、個別にレヴィナスの入門書レヴィナス入門なんかも読んでるので、サルトルとの関係、あるいはフーコーの間接摂取とメルロポンティをちょっと読んでる、というようなニューアカ通過者であるサイコにとってはそれら知の集積が、これに書かれているような感慨でもあるからである。決してニューアカ(ポストモダン)を書いているわけではないのだが、十分そこから吉本隆明の時代に遡及できているのである。
いきなり結論的な部分に入るが、P350で、 前略 - ここでは、吉本のアナルコキャピタリズム風のリバタリアニズムが発揮されている。 - 中略 - 津村の記憶を失ったあとの新左翼や市民主義、文化左翼たちの主張の現在にいたる歴史は、そのことを証明している。(注釈 - たとえば、朝鮮人などの「従軍慰安婦」問題を主要な契機とした、九〇年代後半の高橋哲哉(『戦後責任論』)と加藤典洋(『敗戦後論』)の論争を見よ。これが、津村と吉本の論争の劣化コピーであることは明らかである。)
まず、「アナルコ~」というのが意味をとりにくいと思うのでサイコ的に砕くと、無政府資本主義風の自由至上主義ということかと。津村喬と吉本の論争というのは、例えば、言葉狩り的な批判(津村)に対して吉本が支離滅裂なのだけれど、差別語を差別の問題においても直裁的に使用して説明すべきことをいっている。この吉本の論法を、絓は「倫理主義を「否認」することで、倫理フェティシズムにおちいる」こととして、七・七華青闘告発を通過した新左翼諸党派の末路に言及しているわけである。そして、注釈で文化左翼?のトンデモを告発しているわけだ。このページがこの本の全てを象徴しているといっても過言でないほどに、このテクスト内に凝縮されている。
後、ついでに例の「〈民主〉と〈愛国〉」てあるけれど、この〈 〉というのが、いわゆる吉本隆明シンパたちには「自立」マークと言われていたことは初めて知った。いや、それで絓が、この横領に対して、もっとちゃんと吉本を論ぜよ、というのであろう。証左に、絓は決して吉本を全肯定しているわけではなく、大いに間違いを指摘しつつ、主な論争の相手の正論的なところも抽出しているのであるが、何故、吉本が論敵に勝つことができたのか、というところまで掘り下げているのである。そうした意味で、サルトルとのアナロジーでもって展開されるので、結論は
「資本主義が存続している限り、「革命的」知識人の問題はすべて未解決のまま残されている。そのことを無視して、吉本の「終焉」を語ることはできない。「サルトル」がそうであるように、「吉本隆明」も不断にれわれにつきまとい、回帰してくるのである。」P353
としている。
1894年、フランスでドレフュス事件という冤罪事件に端を発して、「知識人」による体制側への糾弾があった。作家エミール・ゾラが、軍部を中心とする不正と虚偽の数々を徹底的に糾弾した公開質問状(私は弾劾する)を大統領フェリックス・フォールに宛てたものとして新聞掲載したのだ。このアナロジーから、六〇年安保で知識人たちが権力に対して糾弾する行動は、日本におけるドレフュス事件であり、その中から「革命的」知識人が誕生してきた。その代表的、象徴的な存在が吉本隆明その人であった、ということである。同時代におけるアナロジーとしてのサルトルは、しかしながら絶対的というか圧倒的な支持によるヘゲモニーを掌握していた「普遍的」知識人であった。その差異は、サルトルの来日(1966年)で明確に意識されるのであるが、「サルトルの時代」は過去形なのだが、「吉本隆明の時代」は現在形なのである。
そして、その〈革命的〉な〈情況〉は、高度に資本主義である現代においてもなお継続している。なぜならば、資本主義自体が〈革命的〉に変革し続けるものであるからである。



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